大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和33年(ネ)2784号 判決 1960年10月10日

控訴人(申請人) 藤田幸男

被控訴人(被申請人) 山恵木材株式会社

主文

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人を従業員として取り扱い、昭和三三年四月二六日以降本案判決確定に至るまで控訴人に対し毎月金二一、〇〇〇円あての支払をせよ。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

(注、無保証)

事実

控訴代理人は、主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、次に記載するほか、すべて原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、(一) 被控訴人は、昭和三三年初頭から既に、東京都渋谷区幡谷本町二丁目二四四番地に、建坪約三六坪の二階建の建物と、これに附属する材木置場の建築に着工し、これらを同年七月始めに完成したが、完成と同時に、被控訴人の事務所は此処に移り、被控訴人の住込の従業員も全員がこの建物に収容された。

(二) 被控訴人は、従来、木材の委託販売(通称市売)のほか、自らも他の市場から木材を買付けて、これを建築業者等の固定した得意先に売却する(通称つけ売)ことも業としており、そのつけ売は昭和三三年初頭になつて規模が充実した。

(三) 而して、つけ売は、小売と同じく、せり売ではないから、市場の場合のように市場会社から特別の場所の提供をうける必要はなく、設備としては、事務所のほかに材木置場があれば足りる。

従つて、もしかりに、被控訴人が市場会社との契約を解除されて市売ができなくなつたとしても、被控訴人は、右に述べた新設の事務所兼宿舎及び材木置場によつて、つけ売を引き続き行うことになんらの支障もなく、またこの設備によつて、つけ売のほか、小売を併せ行うことも可能であつた。かように、つけ売と小売とを専業とするならば、被控訴人の企業が潰れてしまうことは絶対にないのである。

二、本件解雇は、不当労働行為である。

(一)  本件解雇は、被控訴人自身の不当労働行為であり、被控訴人主張の、市場会社の被控訴人に対する経済的圧迫の行為までをも含めた一連の行為が、不当労働行為を構成するものではない。市場会社の行為は、単に被控訴人が本件不当労働行為をなすに至つた事情に過ぎず、被控訴人が市場会社の不当労働行為に奉仕ないし寄与したといいうるものではない。

(二)  使用者が、不当労働行為を「行う」ことを「認識」して労働者を解雇すれば、それは不当労働行為であり、使用者が自ら解雇を企図したか、他人から強制されて解雇したかは、不当労働行為の成否に関係がない。また他人から強制されて不当労働行為をした場合でも、不当労働行為の主体は、強制された使用者自身であることに変りはない。本件解雇に際し、被控訴人に不当労働行為の認識があつた以上、被控訴人の不当労働行為を否定することはできない。

被控訴人は、控訴人の正当な組合活動を封じようとする市場会社の意図を認識しながら、その意図の実現に協力して控訴人を解雇したのであるから、被控訴人にいわゆる不当労働行為意思のあつたことは明白である。

三、本件解雇は、労働者の団結権を侵害するものであるから、社会的に不相当な解雇であり、解雇権の濫用にあたる。

憲法第二八条は、労働者の団結権、団体行動権を保障する。この規定は単なる宣言にとゞまるものではない。本来、団結権、団体行動権は当然に使用者等を相手方として予定しているものである。従つて、かかる権利を憲法上保障することは、かゝる権利の行使を国が妨害してはならないというにとどまらず、使用者その他もこれを侵害してはならないという意味において、私人相互の関係をも規制しようとするものである。而して、私人間の関係を規制する憲法の規定はそのまま効力規定として私法上の行為を規制すると解すべきであるから、労働者の団結権を侵害する使用者の法律行為は、憲法第二八条に違反し、当然無効である。

而して労働組合法第七条は、団結権、団体行動権に対する憲法上の保障を確認して、団結権、団体行動権に対する侵害行為の典型を不当労働行為として禁止する。従つて、いやしくも或る解雇が同条第一号の不当労働行為に該当するときは、その解雇は直ちに憲法第二八条によつて無効となるのは当然である。それ故、原判決が控訴人に対する解雇を不当労働行為であると認定した以上、その解雇が社会的に不相当かどうか、という判断を別個に行う余地は毛頭なかつたのであり、憲法に違反してなされる解雇で社会的に不相当でないものはありえないのである。

(被控訴人の主張)

一、控訴人主張の第一項(一)の記載部分は認める。但し被控訴人が建物等の建築に着手したのは、昭和三三年四月である。同項(二)記載の事実中、被控訴人が控訴人主張のような市売、つけ売をしていることは認めるが、昭和三三年初頭になつてつけ売の規模を充実さしたことは否認する。

二、いわゆる不当労働行為が成立するためには、解雇等の不利益取扱につき、不当労働行為の意思が決定的原因として認められることを要するところ、被控訴人が控訴人を解雇した決定的理由は、もし控訴人を解雇しなければ、市場会社から契約解除、手形融資の打切り等の経済的圧迫を受け、到底被控訴人の経営を維持して行くことができなかつたことにあるのであるから、本件解雇は不当労働行為を構成しないのである。(証拠省略)

理由

控訴人は、昭和二九年中に、木材の売買を営業とする被控訴会社に当初は三ケ月の期間を定めて、その経過後は期間の定めなく雇用されたものであるが、被控訴会社は、昭和三三年四月二五日、控訴人に予告手当を提供して解雇の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。

控訴人は、右解雇の意思表示は、労働組合法第七条第一号の不当労働行為として、かりに不当労働行為でないとしても、解雇権の濫用として無効である、と主張し、被控訴人は、控訴人の解雇は、同人の組合活動の故ではなく、当時被控訴人が木材置場と資金の提供を受けていた市場会社(東京新宿木材市場株式会社)から、控訴人の解雇を要求せられ、被控訴会社の経営の破綻を救うため、やむなく執つた措置で、不当労働行為でもなく、権利の濫用でもない、と主張する。そこでまず、控訴人がいかなる組合活動を行い、右解雇がいかなる経過をたどつて行なわれたかを考えてみる。

一、被控訴人が、訴外佐藤木材株式会社とともに、市場会社との契約により、その市場内に木材の委託販売のための場所の提供を受けている木材問屋であり、佐藤木材株式会社の代表取締役佐藤裕太郎が市場会社の専務取締役をしていること、被控訴人の従業員の一部が、昭和三二年六月一六日、山恵労組(山恵木材労働組合)を結成したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六号証、当審における控訴人本人尋問の結果によれば、佐藤木材株式会社と被控訴人との従業員の一部が、昭和三三年二月二五日、合同労組(東京一般中小企業労働組合連合新宿木材労組)を結成し、控訴人がその執行委員長に選ばれたことが認められる(本件解雇当時控訴人が合同労組の執行委員長であつたことは、被控訴人のこれを認めるところである。)。

二、成立に争いのない甲第六号証、乙第一一号証、第一二号証、当審証人北条久一郎の証言によりその成立を認めることのできる甲第二号証、第一一号証の一、二、当裁判所が真正に成立したと認める甲第三、四号証、当審証人北条久一郎、政元俊章の各証言及び当審における控訴人本人尋問の結果を綜合すれば、次の事実を認めることができる。

(イ)  山恵労組は、結成当時の組合員としては、北条久一郎、控訴人、藤本清一、塚越照成等十一名で、うち三名は八子文江、高田房子及び井上某の女子従業員、藤本清一は書記長であつたが、その結成と同時に、被控訴人に対し、組合結成の通知を兼ね賃金値上と社会保険加入の要求(当時従業員のうちで社会保険に加入されていない者が三名あつた)をして団体交渉をなし、昭和三二年六月末頃東京都労働委員会に斡旋申請をした結果、昭和三二年七月二七日、その協定を見るに至つたが、被控訴人は組合の結成を極度に嫌い(市場会社の市場内に木材置場の提供を受けている木材問屋は十五位あつて、その中で組合が最初に結成されたのが、山恵労組であり、次いで佐藤木材株式会社において労働組合が結成された)、女子組合員に対し、「嫁入り前の女のくせに、組合なんかやつていると、思想的に悪くなつて、嫁に貰い手がなくなる」などと嫌がらせをいい、日常の執務においても組合員でないものと組合員に対し、差別的態度を示すことが多かつたので、高田房子と井上は遂に山恵労組を脱退するに至つた。

(ロ)  昭和三二年一一月市場会社に解雇問題が生じ、右解雇反対の応援のため山恵労組の組合員藤本清一、北条久一郎及び控訴人等が市場会社に出かけたことがあり、これについて被控訴人の常務取締役から山恵労組の組合員全員に対し「市場会社から山恵木材に対し市場の店を出て行けと言われているから、もしそういうことになつたら山恵木材ももうおしまいである。この際控訴人と書記長の藤本に責任を取つて会社を辞めて貰いたい」との申出があり、これに対し山恵労組員は反対して被控訴人に幾回も団体交渉したところ、被控訴人は、右申出を撤回し、改めて会社の企業経営がなりたたないからとの理由で、新規採用者から順次に藤本清一、北条久一郎、田中光義の三名に辞職勧告をなし、山恵労組もはげしく闘争を展開したが、結局昭和三二年一二月一九日、都労委の斡旋で、藤本清一、田中光義の両名が退職することに協定が成立した。

(ハ)  右の事件が契機となつて、合同労組が結成され、(それと同時に山恵労組は解消された。)前記の如く、控訴人が執行委員長となつた。

乙第一一、二号証の記載、並びに当審における被控訴会社代表者松本寛一郎本人の供述中、以上認定に反する部分はこれを信用しない。

三、成立に争いのない甲第六ないし九号証、乙第三号証の一、二、三、金額訂正部分を除くその余の成立に争いがなく、右訂正部分は成立に争いのない甲第九号証により真正に成立したものと認める甲第一号証の一と、当裁判所が弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第五号証とを綜合すれば、次の事実を認めることができる。

(イ)  佐藤木材株式会社は、昭和三三年三月一〇日頃、経営不振を理由として会社を解散し、従業員全員を解雇する旨発表し、同年四月八日頃からその従業員の就業を拒否したので、合同労組は佐藤木材株式会社に対し争議に入り、市場会社の木材置場の傍にある佐藤木材の建物内の組合事務所に赤旗を出して、佐藤木材の建物、市場会社の木材置場等に「権利を主張しよう」と題するビラを貼り、また市場内に出入する労組者に同様のビラを配布したりした。

(ロ)  右ビラの内容は、市場会社、関係問屋に労働基準法違反殊に残業の割増金の未払の事実があり、これを労働基準監督署その他の機関に取り上げて貰い、市場内の労働基準法違反をなくそうという趣旨であつたが、残業手当の未払の説明として、市場会社等の従業員は、毎日九時間の労働を余儀なくされているから、結局少くとも毎月一五時間の残業をしていることになり、月給一万円(時給五〇円として計算)の者は過去二年間に労働基準法第一一四条に定める附加金と合計して金一五万円の残業の割増賃金の支払を受けていないことになるという計算違い(右の例による計算をすれば右の未払は金七、五〇〇〇円となる。)をしたビラが何枚か金額を訂正されないまま配布されたことがあり(ただし、右の計算違いは後にビラを配布して訂正した。)、かつ、右計算違いをしたビラには使用者が右賃金を「猫ばば」しているとの表現もあつた。

四、成立に争いのない乙第一号証、第一五号証(被控訴会社代表者松本寛一郎の審尋調書)、右乙第一五号証によりその成立を認めることのできる乙第四号証、及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める乙第八号証、第一四号証と当審における被控訴会社代表者松本寛一郎本人尋問の結果を綜合すれば、次の事実を認めることができる。

(イ)  市場会社は、前記昭和三二年一一月の市場会社における解雇問題に関し山恵労組が応援したことについて、会社業務を妨害するものとなし、昭和三二年一一月二二日、被控訴人に対し誠意ある回答を求める旨書面をもつて申し入れたが、佐藤木材株式会社に対する合同労組の前記組合運動についても、被控訴人に対し、前記ビラの配布により市場会社ないし各問屋の信用が毀損されたものとなし、これら組合運動は控訴人が首謀者となつて行つたものであり、かかる事態を招来したのは、結局被控訴人の労務管理が当を得ていなかつた結果によるものであるから、控訴人を解雇すべく、もし解雇しなければ、市場会社の業務規程により被控訴人との契約を解除し、市場から出て行つて貰いたい旨、数回口頭または書面(昭和三二年四月二二日付)をもつて通告し、また被控訴人が市場会社から融資を受けていた合計金四九〇万円のうち金二三〇万円の手形書換を、控訴人の組合運動の故をもつて市場会社から拒否されたが、被控訴会社からの懇願の末ことなきを得た。

(ロ)  被控訴人は、市場会社の右要請に応じ、昭和三二年四月二五日控訴人に対する解雇の通告をなすとともに、翌二六日市場会社に対しこれを報告した。

被控訴人は、市場会社の要求に応じて控訴人を解雇しなければ、市場会社から排除せられ、手形融資の停止を受けて、会社経営は直ちに破綻するので、従業員の全員解雇か、控訴人の解雇かの岐路に直面した旨主張するけれども、当事者双方の疏明を検討するときは、いまだかかる事実を肯認するに足りない。

なるほど、市場会社から控訴人解雇の要請があり、また手形書換を拒まれた事実のあつたことは前認定のとおりであるが、控訴人のした組合活動により市場会社または市場内の問屋の信用を害したり、或は市場への顧客の来集に障害を来したような事実を認めるに足る疏明はないから、市場会社の解雇要求は控訴人の組合活動を嫌つてのものと認めるの外なく、これは本来労働者に許された活動を妨げんとするものである。現に被控訴会社代表者は原審で、控訴人には解雇に値する程重大な過失があつたわけではないが、市場会社の圧迫によりやむを得ず解雇した、と述べているのであるから、控訴人に対する解雇は市場会社の要請により、その組合活動をした故になされたものと認めざるを得ない。次に市場会社の解雇の要求を容れなければ被控訴会社の融資に支障を来すと会社の当事者は考えたことは右代表者の陳述するところであるが、果してそのために直ちに被控訴会社の破綻を来す程の状況であつたかどうかは証拠上は判らない。また被控訴会社が市場会社から解約を受けるおそれがあつたというがその根拠も判らない。控訴人を解雇しないことが市場会社業務規定(乙第一号証)第二二条に定める「契約違反その他問屋として不都合な行為」に該当すると認むべき理由はないからである。

以上認定の事実に照らして考えれば、被控訴人が控訴人を解雇したのは、市場会社からの要求があつたことが契機とはなつているけれども、これのみが本件解雇の決定的原因であるとは、到底認められないし、控訴人の正当な組合活動のためであることは明白である。してみれば、控訴人の解雇は明らかに労働組合法第七条第一号の規定に違反する不当労働行為であるといわなければならない。

ところで、いわゆる不当労働行為の私法上の効力に関し無効かどうかについては、議論の存するところであるが、労働組合法第七条の規定を効力規定ではないとの解釈に従うとしても、本件解雇により憲法第二八条において保障する労働者の団結権が侵害されることは勿論であるから、本件解雇は公の秩序に違反し、無効であると解するを相当とする。

従つて、控訴人は、被控訴人との間に、いまだ雇用関係が継続しているものであり、被控訴人に対し賃金請求権を有するものというべきであり、控訴人が賃金の支払を受けなければ、生活を維持することができないことは、特に反対の疏明がない限り一応これを肯定するのが相当である。而して原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人が解雇当時月額平均金二一、〇〇〇円(日給七一〇円と残業代一一〇円)の賃金の支払を受けていたことが認められる。

してみれば、控訴人の本件仮処分の申請は相当であるから、これを認容すべく、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克巳 菊地庚子三 吉田良正)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例